食育に負けない住育

住まいの小学校

2009年10月16日 13:20

まずは・・・・

先日、お知らせした第3回住まいの小学校

<第3回>
日時:10月25日(日)13時30分~16時30分
会場:琵琶湖博物館 セミナー室
話題提供:鈴木 有さん(木考塾会員、木構造研究者)
「わが家の住まいと暮らし-エコロジー住宅で地震に備える-」

参考文献:
鈴木有・鈴木ゆみ「雨も嬉し、晴も好し」
(建築防災 2002年2月号、財団法人日本建築防災協会 発行)


今回の資料を開催に先立っていただきました。
事前に目を通してご参加いただければと思います!

資料1資料2

では、本題へ

先日ある先生から、こんなお話をお聞きしました。

伝統的木造住宅は、文化伝統の継承にもっとも必要な「人の心」を育てるということです。
私はこれを「住育の力」と呼んでいます。

この頃「食育」ということが言われ、栄養を満たすだけでなく、何をどのように食べるか、食べ物の背景を知ることが大切だという認識が広がっています。どこに住むか、どのような家に住むかということも、同じくらい大事なんです。

科学的な能力を育てる

幼い頃、風邪を引いて休んでいる時、天井をながめて、いろいろな想像を豊かにした記憶があります。
昔の家には、すだれ障子、かまど、消しつぼ、がんどう、ねずみ返し、蔵の二重扉など、先人の工夫やたくさんつまっています。
見て、どうなっているのか考える。
なんのためにこうしているのかな、よくできているな。よく観察し、推論し、理解することは、こどもたちの想像力を育みます。
想像力は、科学的な能力の根源であり、創造力へと結びついていきます。

こどもたちを伝統木造住宅の中にほうりだしてあげると、建物の中でさまざまな発見をしますよ。
古民家の構造、機能、生活の工夫を知り、昔の生活用具を使ってみる。
これは想像力の向上につながり、ひいては創造力、道徳的、科学的能力の向上につながります。

ものとの対話

伝統木造住宅には、建物を長く使い続けられる工夫がたくさんあったり、材料をうまく使い回していたりします。
それを発見することで、「もったいない」という心を知り、それが「ものを大事にしよう」「他者をいつくしむ」という道徳的能力の根源につながります。
伝統木造住宅には、季節のきびしさをしのぐ、季節の移ろい楽しむしつらえもたくさんあります。
夏には建具をすだれ障子に変えることで風通しを確保し、見た目にも涼しく過ごしました。
また、縁側を通して庭とつながっている生活空間には、いつも季節感がありました。
文化財クラスになると、伝統木造住宅を作った人は、もう亡くなっています。
しかし、ことばをしゃべってくれない「もの」を通じて、想像をはたらかせることによって、昔の人や未来の人とさえ、コミュニケーションができるのです。
ものを、他者を、過去や未来の人を、動植物を、自然を大事にする心が育つ場が、今のこどもたちには必要ではないでしょうか。

現代の住宅は人を育てているか?

かつての英国の宰相であるチャーチルは「人は家をつくり、家は人をつくる」と言いました。
伝統木造住宅は「人をつくる」最高の教室であると私は思います。

現在の住宅は機能的で、無駄が無い、ただの箱です。
かくれんぼする空間すらありません。
そういう家で、想像力が育まれていくのだろうか、と危機感を覚えます。

我が家に学びに来る子の中に「先生の家にはなんで広い庭があって、松が3本もあるの?」という子がいるんです。自然と隔絶した、雨露をしのぐだけの箱に住んでいると、自然と融合していた昔の家が不思議に見えるんですね。
それでも、住んだことがあるはずもなく、親世代ですら伝統木造住宅に住んでいないのに「なんか、ここはなつかしい」という子もいます。
やはり、日本人の遺伝子の中にある何かが、伝統木造住宅にはあるんですね。それを子どもたちは感じているんです。
たとえ今、伝統木造住宅に住んでいなくても伝統木造住宅の空間には、現代の建物とはちがった、親しみやすさ、落ち着き、自然との一体になったやすらぎがあります。

たとえば、専門家の話を聞くのでも、壇上からというのでなく、同じ目線で学べます。
音楽や朗読など芸術を味わうにも、落ち着いてあたたかい雰囲気の中で楽します。
建物と庭とが自然につながっていて、季節の営みを感じとることができます。
住んではいなくても、文化財を訪れ、文化財を活用したイベントなどの機会を利用し、想像力をはたらかせ、自然と融合する体験を、していただければと思います。


つくり手の役割

子どもたちに伝える
木の家のよさを伝える
文化を大切に思う心が消滅しかけています。これが何より重要な問題です。
つくり手のみなさんには、学校に言って話をしてほしいです。文化や伝統を大切にする心を育てるために、どこの学校にも道徳の授業があります。こどもへの出前授業をしたいと言えば、必ず受け入れてくれるはずです。それから、大工さんは危ないから、と言わず、こどもに現場を見せてあげてください。

文化や伝統を大切にすることは過去に向うことではありません。
むしろ、豊かな感性や想像力を育て、文化を発展させていこうとする意欲を育てることにつながります。

長い将来にわたって文化の担い手になるような、平成生まれの民家をつくっているんだ、という気概をもって、家づくりをしていただきたいです。
そして、長持ちする家づくりについて、もっともっと説明できるようになってください。
長い時間の間に木材の強度がどのように変化していくのか、接着剤を使った合板などと製材とで、金物接合と木組みとで、経年変化においてどのような違いがあるのか、本当に長持ちする基礎の構造とは何なのか? 
そういったことをきちんと説明できるようになることで、住みやすく、耐久性が高く、住育の力をもった伝統型の木造住宅がもっと広がっていくはずです。それを切に願っています。




私たちはこのお話と同じ想いで、住まいの小学校を開催しています。

食だけでなく、住まいにも目を向けていただきたいです。
どちらもとても大切な大切なことなのです。
ぜひ一緒に考えてみませんか?


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